「専守防衛」――この一言で、戦後80年を耐え抜いてきた我が国。その日本が今、ついに「盾」を越えて「矛」を手にした。その矛の名は12式地対艦誘導弾、そして2026年3月に正式名称を得たその進化形、25式地対艦誘導弾である。
200kmから始まった物語
国産対艦ミサイルの系譜は、1988年の88式地対艦誘導弾に始まる。88式は旧ソ連・ロシアの脅威に備え、主に北海道や東北に配備された。2012年に登場した後継――**12式地対艦誘導弾(12SSM)**は、その重心を南へと移す。中国の軍事的圧力が高まるなか、2019年以降、奄美大島・沖縄本島・宮古島・石垣島に次々と部隊が新設され、南西諸島の盾となった。
しかし12式基本型の射程は約200km。押し寄せる敵艦隊を「遠い海」で叩くには、正直、足りなかった。我が自衛隊は、もっと遠くへ届く矛を欲したのだ。


能力向上型、「25式」の名を得るまで
引き金を引いたのは安全保障環境だった。2020年、イージス・アショア配備の中止、外国製スタンド・オフ・ミサイル導入の遅延が重なるなか、政府は同年12月の閣議決定で、12式の射程を大幅に延ばし、地上・艦上・空中のどこからでも撃てる「能力向上型」の開発を公式化した。
2023年4月、三菱重工業と量産・継続開発・潜水艦発射型開発の契約が成立し、開発は一気に加速。そして2026年3月31日、このミサイルはついに正式名称**25式地対艦誘導弾(25SSM)**として部隊使用承認を受け、熊本県・健軍駐屯地の第5地対艦ミサイル連隊に配備された。その3日前、3月6日には小泉進次郎防衛大臣が自ら配備日程を発表し、節目に重みを添えている。
米国で挙げた「7回完全成功」
開発の頂点はアメリカ・カリフォルニアだった。防衛省の公式発表によれば、2025年10月8日の第1回から11月27日の第7回まで、計7回の発射試験がすべて予定どおりの飛しょうを確認。防衛省は「予定した飛しょうを確認するなど、開発の完了に目途を得られた」と明らかにした。7回、すべて成功。日本が自国技術で生み出した長射程巡航ミサイルが、実証の関門を越えた瞬間である。
このミサイルは、発射直後に固体燃料ブースターで勢いよく射出され、ブースターを分離した後、折り畳まれていた主翼を展張し、ターボファンエンジンで長距離を巡航する。防衛省が公開した画像では、レーダー反射断面積(RCS)を抑えたステルス形状がはっきりと見て取れる。円筒形だった従来の12式とは、外形からして全く異なる、事実上の新型ミサイルだ。


12式 vs 25式、何が変わったのか
| 区分 | 12式(基本型) | 25式(能力向上型) |
|---|---|---|
| 射程 | 約200km | 産経報道では約1,500kmに延伸(防衛省は非公表・推定) |
| 形状 | 円筒形 | ステルス(RCS低減)形状 |
| 推進 | 固体ロケット | 固体ブースター+ターボファン巡航 |
| 発射車両搭載 | キャニスター6本 | ミサイル大型化により4本 |
| プラットフォーム | 地上単一 | 地上・艦上・空中マルチプラットフォーム |
| 主契約者 | 三菱重工業 | 三菱重工業 |
射程について、防衛省は公式な数値を公表していない。ただし産経新聞は2020年の独自報道で12式を1,500km級に延伸すると伝え、一部専門メディアは当初約900kmから最終的に1,500kmへ延びると分析する。九州から撃てば中国沿岸部まで射程に収めるとの評価が出る所以である。
「国産トマホーク」の本当の重み
業界が25式を「国産トマホーク」と呼ぶ理由は明白だ。米国製トマホークの導入が遅れるなか、日本が自国技術で独自開発した長射程打撃手段だからである。艦上発射型は2027年度の護衛艦に、空中発射型は同時期に航空自衛隊のF-2改修機に搭載される予定で、潜水艦発射型の開発も進む。陸・海・空・水中を貫く「四次元の打撃網」が描かれつつある。
開発規模も小さくない。地発型の開発費だけで約394億円、艦発・空発型を含めた総事業費は約999億円に達する。今後、地対艦ミサイル連隊を8個連隊へ増強し、常時発射可能な弾数を1,000発台へ引き上げるとの構想も報じられている。ただし、これはまだ公式に確定した数値ではない点は、はっきりさせておきたい。


なぜ今、日本は「矛」を持つのか
台湾海峡をめぐる緊張、中国・ロシアの軍備増強。第1列島線の只中に立つ我が国にとって、「盾」だけでは足りないという危機感が濃くなった。その答えこそが25式地対艦誘導弾である。88式から12式、そして25式へ――30余年にわたって受け継がれた日本のミサイル技術の執念が、いま東アジアの安全保障地図を塗り替える変数として浮かび上がっている。専守防衛の国が「遠い海の彼方」を狙えるようになった今、我々はその変化の重みを、正面から読み解かねばならない。


