1挺700万円──自衛隊が選んだドイツ製狙撃銃「G28E2」とは
狙撃銃1挺で、およそ700万円。これは陸上自衛隊が新型狙撃銃に投じる量産単価です。光学機器・バイポッド・垂直グリップまで含めた総額は、約900挺取得時で約93億円と見込まれています。単純に割れば、1挺あたりの実調達コストは1,000万円近くにのぼります。なぜ自衛隊は、これほどの大金を投じて、20年以上慣れ親しんだ銃を手放す決断をしたのでしょうか。
20年連れ添った米国製M24、表舞台を去る
これまで自衛隊の狙撃手の手にあったのは、米国製のボルトアクション狙撃銃 M24(対人狙撃銃) でした。陸上自衛隊は2000年代初頭に専用の対人狙撃銃M24 SWSを導入し、狙撃要員の教育・配備を本格化させました。一発撃つたびに手でボルトを引き、次弾を送り込む――精密ではあるものの、どうしても一手間かかる方式です。
しかし、時代は変わりました。M24は信頼性の高い狙撃銃ではあるものの、水陸機動団のように海水に浸かる環境や、変化しつつある普通科部隊の任務にはしだいに厳しくなり、ボルトアクションより火力面で有利なセミオートが求められるようになっていました。
後継はアメリカではなく、ドイツからやってきた
新型狙撃銃の正式名称は 7.62mm対人狙撃銃 G28E2。手がけたのは米国ではなく、ドイツの名門銃器メーカー ヘッケラー&コッホ(Heckler & Koch) です。陸上自衛隊はM24 SWSの後継として2023年(令和5年)よりG28E2の調達を開始し、防衛省は最大900挺の調達を予定しています。
最大の変化は、その作動方式にあります。G28E2は セミオート(半自動)狙撃銃。引き金を引けば、次弾が自動で装填されます。いちいちボルトを引く必要がなく、複数の標的を相手にする場面や、素早い追撃が求められる状況では圧倒的に有利です。

米陸軍の最新狙撃銃M110A1と「同じ系譜」
この銃の面白さは、その“血筋”にあります。2016年4月、H&KのG28軽量バージョンが米陸軍のコンパクト半自動狙撃システム契約を獲得し、M110A1 CSASSとして採用、最大3,643挺の導入が決定されました。つまり、米陸軍の最新マークスマンライフルと、自衛隊の新型狙撃銃は、同じG28系列から枝分かれした間柄なのです。
ただし、ひとつ補足しておきたい点があります。「HK417の発展型がG28」と解説されることが多いものの、H&Kの公式な位置づけでは、G28はあくまでMR762(MR308)をもとに新規開発された装備とされています。ですから「HK417の兄弟」というより、同じ一族から分かれた“いとこ” と表現したほうが正確でしょう。
日本は「より遠くを見る」道を選んだ
同じ一族でも、どんな目(照準眼鏡)を載せるかで性格は変わります。米軍が分隊支援用に比較的低倍率のスコープを用いるのに対し、自衛隊のG28E2にはLeupold Mark 5HD 5-25スコープが搭載されます。標的を最大20倍以上まで引き寄せて見られる、可変倍率の照準眼鏡です。
有効射程は 最大およそ1,000m。ボルトを引いていた自衛隊の手は、いまやセミオートで1,000mの先を狙います。これは単なる装備の更新ではありません。M24を単独で遠距離精密射撃に用いてきた従来の運用から、分隊や普通科に組み込みやすい「即応狙撃」の概念へと比重を移す可能性を示唆する変化なのです。
おわりに
700万円という値札は高く見えますが、これは銃本体だけでなく、光学機器・予備部品・整備・訓練までを束ねた“システム価格”です。自衛隊が20年ぶりに狙撃銃を更新するにあたり、アメリカではなくドイツを選んだ――その背景には、変化する任務環境、セミオートの火力、そして1,000mの先を捉える精密性のすべてを手にしようとする選択がありました

