長征10B(再使用ロケット)が2026年7月10日、初飛行で打ち上げと1段回収を同時に成功させ、宇宙開発の歴史に新たな一線を刻みました。中国はこの日、海南商業宇宙発射場から長征10B(長征十号乙/CZ-10B)を打ち上げて衛星を所定軌道へ投入し、1段を洋上プラットフォームの「網」で捕まえることに成功しました。米国に次ぐ世界2番目の軌道級1段回収であり、「網式(網系)回収」としては世界初という衝撃の一歩です。
長征10Bは何を成し遂げたか──世界初の「網キャッチ」回収
打ち上げは現地時間0時15分(UTC04:15)、2番発射台から行われました。ロケットは衛星インターネット試験衛星を軌道に乗せた後、1・2段分離から約6分で1段が垂直に帰還し、洋上プラットフォームへ着地しました。

打ち上げから回収まで
1段は分離後に姿勢を整え(滑空)、エンジンを再点火して減速し(動力減速)、空気抵抗で速度を落として(空力減速)降下しました。中国側の詳細説明によれば、離昇から約487秒後、発射地点から約430km離れた洋上回収船「領航者(ナビゲーター)」号の上に着地したとされます。
脚の代わりに「網」──ファルコン9との決定的な違い
スペースXのファルコン9が着陸脚で垂直着陸するのに対し、この機体に着陸脚はありません。代わりに1段に取り付けた4本のフックが、回収船に張られた**「井」字形の高強度ネット**を捕らえます。重い着陸脚を省いて機体を軽くし、着地誤差への適応力を高めた設計です。回収船「領航者」号は全長144m・幅50m・満載排水量2.5万トン級で、2025年11月に引き渡された中国初の洋上ロケット回収プラットフォームです。
諸元と技術──63m・890トン・16トン
長征10Bは全長約63m、直径5mの2段式ロケットです。離昇推力約890トン、離昇重量約760トン、再使用状態で低軌道(LEO)に16トンを投入できます。1段は液体酸素・ケロシンを用いるYF-100Kエンジン7基を束ね、2段は液体酸素・メタンのYF-219エンジンを初めて実戦投入しました。
「組み合わせ(拼好箭)」構造──10Aの1段+10Cの2段
興味深いのは、この機体が「組み合わせ型」ロケットである点です。1段は中国の次世代有人ロケット長征10Aの1段と同一、2段は商業型長征10C系のメタンエンジン段を結合しています。開発は中国航天科技集団(CASC)傘下の中国運載火箭技術研究院(CALT)、運用は中国長征火箭有限公司が担い、衛星インターネット・コンステレーション(大規模衛星群)の配備を狙います。プロジェクト承認から発射台に立つまで、わずか約13か月でした。
なぜ重要か──世界2番目の再使用ロケット大国
今回の成功で中国は、米国(スペースX・ブルーオリジン)に次いで軌道級1段回収能力を手にした2番目の国となりました。とりわけ「初飛行でいきなり1段回収に成功」した例は世界初です。回収した1段は年内に再使用飛行へ投入するのが中国側の目標です。さらに長征10Bは、**有人月着陸(2030年以前が目標)**に向けた長征10Aの技術リスクを前もって下げる「データ収集役」も兼ねています。
日本から見た長征10B──同じ48時間、違う高さ
奇しくもほぼ同時刻、日本でも再使用ロケットの実験がありました。JAXAは7月11日、秋田県の能代実験場で再使用実験機**「RV-X」を初めて自律で離着陸させましたが、到達高度は約10数m**にとどまりました。中国が軌道級1段を洋上で捕まえる一方、日本は初の「10mの跳躍」を確認した格好です。日本の基幹ロケットH3はなお使い捨てで、2025年12月の失敗を経て2026年6月に復帰を果たしました。JAXAは独仏と実用機に近い「CALLISTO」を準備中ですが、部分再使用の実用化目標は2030年代前半です。長征10Bが東アジアの宇宙開発競争に与えた衝撃は、それだけ大きいと言えます。
長征10Bの初飛行は、単なる打ち上げ成功を超え、再使用ロケット技術の国家勢力図を塗り替えた出来事です。実際の再使用飛行が続けば、その重みはさらに増すでしょう。


